Rambler love peace

~世界の片隅から~

乃木坂46についての一考察

とある音楽番組をみた

先日に知合いの家でこんな番組をみた。

「心のベストテン」

fod.fujitv.co.jp

通常はフジのオンデマンドでしか配信されていないのだが、特別編ということで地上波放送していたのを録画しておいてくれたのだ。

元々はcakes(ケイクス)ダイノジ大谷ノブ彦と音楽ジャーナリストの柴那典が同名のコラムを書いていたのを対談形式にしたもの。

この中に「レイチェル・プラッテンと乃木坂46」と題したものがあり、乃木坂46についてかなり深い洞察をされていたので、自分なりの解釈も含めて今の乃木坂46について考察してみたいと思う。

 

乃木坂46の去年の曲は壮大な三部作だった!?

アイドルはマネージメントで楽曲で次にどんな曲を使うのかという必然性がないと大ブレイクしない。大ブレイクしているアイドルは必然性に沿った楽曲の出し方をしている。

これは大谷が語っていた言葉であるが、そのグループの「叙事詩」を書いているシングルがあり、それを出すべきタイミング(=必然性)でリリースし、「ストーリー性」を作っている、持っているアイドルが圧倒的に売れており、盛り上がっているのがアイドル界の現状であるというのを見事に言い当てている。

 

その中で乃木坂46は一昨年(2014年)の紅白に確定といわれたが出場できなかった。

「さぁ、紅白に出れなかった翌年にどうやっていくのか?」というのが、2015年の大きな目標だったといえる。逆に、2015年は、紅白出場を念頭にストーリーを綿密に作り、そのストーリーを突っ走ってきた年とも言える。

それを踏まえて、柴さんがこんなことを言っている。

去年のシングル「命は美しい」、「太陽ノック」、「今、話したい誰かがいる」は「踏み出せない子」の三部作である。

これには眼からうろこが落ちた。

確かに、一つ、一つの曲はそれなりに聴きこんではいるだろう。

しかし、乃木坂46においては、一部例外を除き「叙事詩」は存在しないし、そこに別シングルと別シングルを繋げてのストーリー性というものは存在してこなかったと言える。無論、どのシングルとどのシングルを繋げて、ストーリー性を持たせて聞くのかという問題もある。

 

その中で、柴さんはこのようになことを語っていた。

「命は美しい」、「太陽ノック」、「今、話したい誰かがいる」は全て主人公が「自分の殻にこもっている子」である。

例えば、「命は美しい」では「何のために生きるのか?」や「夢を見られるならこの瞼を閉じよう」などの詞があり、それを表現していると言える。また、「太陽ノック」にも「一人きり閉じ籠ってた」という詞がある。「今、話したい誰かがいる」では、本当の気持ちを言わないことで今の世界を保とうとしているのである。

去年の乃木坂46のシングルの主人公は全て「自分」から外の世界を見ている。その「主人公」がどう外の世界と関わって行くかの変化を捉えるという話をしており、唸ってしまった。

柴さんは「心が叫びたがっているんだ」の主人公の女の子の話までを絡ませて、「自分の殻にこもっている子」すなわち「踏み出せない子」の話をしていて、強い説得力を感じた。

 

これは改めて三作の歌詞を見直せばわかるけど、そういう見方をすればかなり作りこんである三作と言えるし、大谷に言わせれば「今の子超あるあるで、超普遍的なポップス」らしい。

そして、それを去年の乃木坂46に歌わせたことがいわゆる必然性ということなのだろう。

 

乃木坂46の人気の秘密

AKB48は戦う女の子

乃木坂46は戦えない女の子

 柴さんが公式ライバルと言われているAKBと乃木坂を考えた時に出てきたフレーズらしい。

 乃木坂46は「戦えない女の子」の曲だから刺さるのであり、出すべき曲でファンが乃木坂46に求めているものを正しい形で出していると柴さんと大谷は結論づけている。

 

戦えない女の子の一例で大谷が生駒里奈に初めて会ったときに、「将来の夢は?」という質問に「早く、秋田に帰りたい。」という答えをされたというエピソードを話しており、昨年に公開されたドキュメンタリー映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」や昨年末に集英社から出版された『乃木坂46物語』を思い出した。

 

映画を観た方はわかると思うが、特に取り上げられた乃木坂46メンバーは、「どこか別の場所に逃げてきた(逃げたい)子」だったのである。また、『乃木坂46物語』にもこのエピソードは物語の一つの軸として欠かせないものになっている。
ここから「逃げる」ということは、本質的に「戦えない(戦わない)」ということでもある。

反面、AKB48はその成長過程において、世間の目というものと戦ってきた大きくなったグループであり、常にグループ内でも戦いを強いられてきたグループである。

そのような文脈で「AKBは戦う女の子。乃木坂は戦えない女の子」と言ったのだろう。

 

乃木坂46物語』に、「戦えない女の子」を端的に表現したと個人的に思った一文がある。

初期のセンターである生駒里奈が真っすぐな”正義”をめざす”少年マンガの主人公”であるのなら、繊細で自分に自信のない西野七瀬は”少女マンガのヒロイン”のような存在。

―『乃木坂46物語』P.278

生駒里奈少年マンガの主人公、西野七瀬は少女マンガのヒロイン。

ここでいわゆる王道と言われる少年マンガ、少女マンガの要素について個人的にいくつかあげてみる。

 

少年マンガ

  • 正義
  • 友情
  • 努力
  • 成長
  • 心理描写が少ない
  • 読者が常に主人公と同じ目線、心情

 

少女マンガ

  • 美形
  • 葛藤
  • 恋愛
  • 成就
  • 心理的描写が多い
  • 読者は主人公とは別の第三者としての目線、心情

 

あくまで一例であるし、これ以外のマンガも多数存在する。しかし、こうあげた時に周りによって作られたとかは関係なしに、今見えるものとして、前者は生駒里奈、後者は西野七瀬のキャラクターに近いものがあるといえる。

乃木坂46に女性のファンが多いのは、「戦えない女の子」像を圧倒的に身近に感じているからで、その中で特に、西野七瀬は本人の意思とはたぶん別のところで「少女マンガのヒロイン」として君臨してるからこそ、人気があるのではないだろうか。

 

生駒里奈少年マンガの主人公、西野七瀬が少女マンガの主人公は一見相反するように見えるが、「逃げる≒戦えない」ということでは同じではないのかと思う。

少年マンガも、実は最初は自分の境遇から目を背けるパターンが多いし、少女マンガもヒロインも自分の境遇に諦めているパターンが多い。これは一種の「逃げ」であり「他戦うこと」から目を逸らしている。

「逃げる」からの「戦う」という意味において、乃木坂46においてわかりやすいのは、少年マンガのヒーローが生駒里奈で、少女マンガのヒロインは西野七瀬なのだろう。

そして、乃木坂46という物語では、センター回数からも生駒里奈西野七瀬という二人は欠かせない登場人物なのである。その二人が中心なのであれば乃木坂46は、「戦えない女の子」という言葉はハマっている。

 

また、松村沙友理乃木坂46について『乃木坂46物語』のなかでこう語っている。

「私、乃木坂46ってマンガみたいだなって思っていて、メンバーそれぞれがいろんなマンガの主人公なんですよ。生駒(里奈)ちゃんみたいな少年マンガの主人公。まいやん(白石麻衣)みたいなオシャレなマンガのヒロインもいる。でも、誰を主人公にするかで、マンガのジャンルすらも変わっちゃうと思うんですよね。そんなマンガの集まりが乃木坂46だと思うんです。で、そのマンガの未来。最終回はメンバーの第2章が始まるっていう」

―『乃木坂46物語』P.295

どのアイドルグループにおいても、少年マンガ的な歩み方をする子もいるし、少女マンガのヒロイン的な歩み方をする子もいる。

実際に乃木坂46においては、少年マンガ的なキャラのメンバーはそれぞれのストーリーの中で語れることが多く、少女マンガ的なキャラのメンバーは握手やメディアを通して人気があり、その割合バランスが絶妙なところにあるグループだろう。

だからこそ、他のグループとは一線を格したアイドルグループの地位を築いており、ファンにとっての理想的なアイドル像こそが、今の乃木坂46人気があるのだろう。

 

君の名は希望』とこれからの乃木坂46

そんな乃木坂46は、2015年の紅白歌合戦で『君の名は希望』を披露した。

この曲は、「私はここにいていいのか?」という彼女達が持っていた想いを表現した曲といえる。

曲の内容的に、部屋の中でひとりぼっちでいることが一番いいと思っていたけど、いろんな人と触れたり社会にふれて世界を広げた時に、あぁ、世界はこんなに優しいんだ、人は1人で生きていけないんだという内容である。また、その内容はファンひとりひとりの日常とシンクロしており、乃木坂46のファンにおいても大切な曲である。

 これは内容的に2015年の三部作と通じるものがある。それを初出場の紅白で披露したという意味合いにおいて、乃木坂46の第一章の締め、第二章のスタートとして相応しい曲である。

 

そんな乃木坂46のこれからについて、先日こんな記事が出ていた。

realsound.jp

――多方面にハイレベルで安定して、とても順調に見えていた乃木坂46の2015年ですが、その裏側はやっぱり相当厳しいんですね。

今野:断腸の思いがたくさんありますね(笑)。まあ2016年はおそらくもっと激動の年になって、いろんな変革があると思います。変化していくことで生まれる物語も含めて、しっかりとしたエンターテインメントとしてファンの皆さんにお届けする責任がある。いま仰っていただいたハイレベルの安定というものも、今年はなくなるかもしれません。でも、その変化の中で失うものもあれば、新たに手にするものもあるでしょう。今年はまた、一から何かを作り上げていくことが必要かもしれないですね。この記事が公開されて以降、いろんなことが起こると思います。

乃木坂46の紅白後の展開を運営の今野さんが語ったものであるが、今後新たな変革が始まることを示唆している。2015年までに作り上げてきた乃木坂46が第一章で、2016年から新たに第二章がスタートするということなのだろう。

2015年末に念願の紅白で『君の名は希望』を披露し、公式的にも第二章がスタートすると示唆された2016年の乃木坂46から目が離せない一年となるだろうし、どのように変化していくのか、これからの乃木坂46に期待したい。

 

<了>

 

 

命は美しい

命は美しい

 

 

 

太陽ノック

太陽ノック

 

 

 

 

 

 

 

乃木坂46物語

乃木坂46物語

 

 

君の名は希望

君の名は希望

 

 

「倒れるときは前のめり」感想―小屋裏より愛を込めて―

愛してやまない作家の1人、有川浩さんの初エッセイ集「倒れるときは前のめり」が発売されたので、早速購入し、読了。

内容としては、デビュー時から主に新聞や雑誌に掲載されたエッセイやコラムを集めた感じ。なので、同じような内容が続いたりとかするが、それはご愛嬌。

 

有川浩さんの作品との出会いや愛は、映画「図書館戦争 THE LAST MISSION」の感想をブログにあげようと思い、お蔵入りしてたので、ここで引用。

映画「図書館戦争 THE LAST MISSION」を鑑賞してきた。
アニメ版、実写版とずっと追ってきた自分にとって、このシリーズはこれで最後かと思うと感慨深いものがある。いや、自分が大好きな手塚と柴崎の話をみたいから、是非スピンオフドラマお願いします。
そもそも大学2年ぐらいにノイタミナ枠でやっていたアニメ版の「図書館戦争」をたまたまみたのがきっかけ。

本が好きだし、この設定が非常に面白い設定だったので、「図書館戦争」シリーズを一気に集め、そこから有川浩沼へ落ちる。

発売された初日に購入しているレベル。てか、大事なときに使う言語のほぼ大半は有川作品からの引用が多いかもしれない。

政治学かなにかの講義で「図書館戦争」を題材にレポート書いてしまったこともある。もはや、思想レベルにまで落とし込まれてる。

 

で、今作品について。

過去に書いたものだからこそ、忘れてはいけないことがあると改めて思わされることが多い。

東日本大震災(その当時)の話、 東京都青少年健全育成条例の改正の話、難聴者の話、出版業界の話等々、一過性の話題に上がっては年数と共に片隅に追いやられる話題。改めて読むと、気づかされることが多い。

 

94編のエッセイと2本の小説で成立しているが、内容がかぶらないように激選10本だけ選ぼうと思う。

 

・「読書は遊びだ」(P.28~)

東京都青少年健全育成条例の改正問題についてふれた文章。*1

条例による出版物への規制ということで、当時大いに盛り上がったし、コミケがどうなるかという話まで出てきてた気がする。

 都による条例とはいえ、出版社が東京に集中している以上、自主規制にならざるを得ない。

「リアル『図書館戦争』」とも一部では言われたが*2表現の自由に関する権力による検閲は許されない。

権力は身近にあるということを改めて認識させられた事だった。

 

・「「自粛」より楽しんで経済貢献を」(P.46~)

2011年3月11日の東日本大震災直後のお話。

当時は「自粛」、「不謹慎」という言葉が飛び交い、周りを気にする風潮で、時代に閉塞感を非常に感じてた気がする。

この時は有川さんと同じように「自粛」するのではなく、お金を使い経済貢献をすることが、被災地にできる精一杯のことではないかと思い、生活していた。

災害はいつ起きるかわからない。そうなった時の危機意識、復興への対応として一考しておく時期なのかもしれない。

 

・「未来への投資」(P.94~)

出版業界のお金の周り方や新刊と文庫の違いをざっくりわかりやすく、説明してくれている文章。

本読みからすると全部を全部、書店で買うのはやはり財政的に厳しいものがある。

しかし、できるときに少しづつでも「書店で買う。」、「新刊で買う。」ということを行っていくことが、より業界に貢献できるのではないかと思う。

単に「本を買う」という行動一つについて、改めて深く考えさせられる内容。

去年に有川さんが始められたブログでも、大いに語ってくれているので、是非。*3

 

・「「嫌い」と公言 慎みたい」(P.100~)

この文章を読んだ時に思い出したことがある。

当時気になっていた人がツイートで同じようなことを言っていたり、直接言われたことが脳裏をかすった。

言われた時も非常に納得したし、直接聞かれた時は「苦手」などと言い、はっきり「嫌い」と公言しないようにしてきた。

「嫌い」と言ってしまい拒否をすることで、別の良い面の可能性をも閉じてしまうことになると思っている。なので、一面だけをみて「嫌い」と言わないように心がけている。

「好き」であるという感情は共感を呼びやすいが、「嫌い」という感情はネガティブなので広がりはなく、むしろ狭めていく。

言葉の使い方は、「匿名の毛布」(P.154~)でも書いているので、是非。

自戒をこめて、この言葉は大切にしていきたい。

 

・「自作解説 in 2006」(P.103~)

 2006年当時に発売されていた『塩の街』、『空の中』、『海の底』、『図書館戦争』、『図書館内乱』、『レインツリーの国』、『図書館危機』、『クジラの彼』についての筆者による解説。

一番の驚きは、『空の中』の宮じいにモデルの人がいたということ。このモデルになった方の話は別の箇所でもでてきます。

筆者による作品への思いや意図というものがわかり、改めてその視点で作品を読み直すのもありかも。

 

・「書店はテーマパーク」(P.126~)

題名の通りです(笑)

あとは、読んでください。理由はわかります。

 

自分は、図書館もテーマパークだと思っちゃう口です。

特に閉架とか、最高!!場所によっては、携帯の電波すら入らないので誰にも邪魔されません(笑)

そして、既に廃刊となった作品にも会えます(笑)

 

てなわけで、書店と図書館はテーマパークです。(←ここテストでます)

 

有川さんによる好きな本の紹介もあるので、読んでみて気になった本を読んでみて、自分の幅を広げるのも大いにアリだと思います。

 

・「読んでおいしい本」(P.136~)

正直、「心に響いた一文」(P.179)と悩みました。でも、こちらを選びました。

なぜなら、向田邦子の随筆をここまで読んで、その料理を作りたいと思わせる文章は少ないからだ。

あと、『植物図鑑』でも使われている「料る(りょうる)」という単語についての解説もあって、ますます「料る」という語が好きになった。

 

向田邦子は自分が生まれた頃には既に亡くなっていたのだが、実家に本があったのがきっかけで読み始めた。本当に何度読んでも面白い。そこはかとなく昭和のかほりを感じることができるのも、要因の一つなのかもしれない。

向田邦子作品に触れたことない方には、ぜひ読んでいただきたい。

 

・「エロを感じる瞬間」(P.225~)

 ある映画のラブシーンを有川さんが文章に起こしたストーリーから始まる。

いや、この文章の官能的なことといったら。

官能の話から恋愛の話までしてて、エッセイとして非常に読み応えある。

この方が語る恋愛観は本当に深い。

 

・「児玉清さんのこと」(P.234~)

有川浩ファンにとっては、避けては通れないのが、故・児玉清氏。

文庫版『図書館戦争』の対談インタビュー、映画『図書館戦争』にも出演等々この方が残した功績は大きい。

あの対談インタビューが奇しくも2011年3月11日に行われたのは、偶然ではないのかもしれないと、外野から思う。

この文章を読んでいると、児玉さんの人間性というものが本当に感じれるし、まだどこかで生きていらっしゃるんじゃないかと思ってしまう。

同じ有川浩ファンとして、もっと解説を読みたかった。

 

・「彼の本棚」(P.307~)

短編小説。話としては、本当に出だしのみ。

共通で読んでいる本から、どう発展していくのか。

この後、どういう物語になっていくのか気になるところ。

首を長くして待つことにします(笑) 

 

 

以上10編を選んで、感想なりを書いてみました。

他にも本や映画の紹介、地元高知県のこと、「鉄腕ダッシュ」のことなど多岐にわたって書かれている。

改めて考えさせられることが多かったけど、流石は有川浩さん!という作品に仕上がっている。

有川浩ファンの方はもちろん、それ以外の本好きな方には、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

 

倒れるときは前のめり

倒れるときは前のめり

 

 

*1:内容や成立過程はこちらの記事がわかりやすいかも。非実在青少年は、なぜ問題なのか?

*2:当時もその後も言っていた口

*3:1.読書の未来 2.単行本と文庫本

徒然にレビュー(2015/10)

10月に読んだ本のレビューをまとめてみた。 

作品を改めて読みなおすとまた違った視点で捉えられたり、改めて考えさせられることがあると感じる。

『何者』(朝井リョウ著)ではないけど、どうしても分析的に読んでしまう癖があるからかもしれないけど。ただ、楽しいものは楽しいし、面白いものは面白い。そっから何か得るものがあればいいんじゃないかなと思ったりする。

 

2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:10冊

 

レインツリーの国 (新潮文庫)

著者:有川浩
文庫化された時に既に読んでいたのを図書館戦争のドラマ&本作品の映画化ということで数年ぶりに再読。
本の感想をきっかけにメールのやり取りから始まった恋愛。健常者の主人公・伸と聴覚障害のヒロイン・ひとみにはなかなか埋めがたい溝があるのだが、それを一つ一つ失敗しながらも埋めていこうとする伸が眩しい。似た者同士のまどろっこさにキュン死させられるのだが、言葉の使い方に惹かれたという伸のセンスの良さには個人的に感じるものがすごくある。
あと、聴覚障害にも色々な段階があることを知ることにもなった作品。

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

 

 

青の炎 (角川文庫)

著者:貴志祐介
中学の時に映画を観て即購入した本。映画での主人公は嵐の二宮くんで、ヒロインは松浦亜弥。10年以上ぶりに再読。
推理小説の中でも犯人側からストーリーを描く倒叙推理という形式。
大切な家族を守るために、罪を犯す主人公。主人公が犯人なのに感情移入してしまうのは、心理描写を丁寧に書いていること、犯罪にリアリティがあるからだと思う。
犯罪を犯した後に大切なもの(家族、恋人、友人)を失ったことに気づく主人公が切ない。主人公と恋人のシーンはまさに青春なので、余計に切なさを感じる作品。
主人公とヒロインの性描写シーンをとても甘酸っぱく、でも官能的に書いていて、妙なエロさを引き出している。

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

 

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

著者:乙一

乙一が16歳で執筆したデビュー作。これを16歳で書いているとかただただ凄いと感心する。

「夏と花火と私の死体」は死んでしまった主人公の「わたし」の目線で展開される。子供ならではの考えと行動で「わたし」の死体を隠そうとしていて、狂気さにぞっとした。しかし、最後に関係ないと思われた事件の犯人が明らかになったときに、歪んだ愛の形をみてしまったと同時に「わたし」以外の3人にある種の恐怖を感じた。

併録されている「優子」は、正しいと思っていた主人公の感覚が実は狂っているということが明らかにされる。両作品とも「結」の作り方が上手く、その不気味さの余韻が心地よい。

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

 

 

だれもが知ってる小さな国

著者:有川浩,村上勉
有川浩の約1年ぶりの新刊。

コロボックル物語の本家佐藤さとる氏が直々に有川浩氏を指名して書かれた続編。挿絵は変わらず村上勉氏。
小さいころにコロボックルシリーズを読んだ記憶がかすかにあるが、世界観が全くかわらない完成度が高い作品。
コロボックル小国とは別のコロボックルの話だが、彼らは人間が読んでいるコロボックルシリーズを読んだことで、アイデンティティーを確立している。ラストに人間とコロボックルの隠された関係性が明らかになり、心温まる。人間の子供のヒコとヒメの幼馴染の関係性にキュンキュンする。
有川版のコロボックルは人間とコロボックルの関係性だけでなく、人間と人間の関係性(含む恋愛要素)があるところがオリジナリティを出している。
コロボックルシリーズを読みたい、読みなおしたいという強い衝動にかられる作品。

だれもが知ってる小さな国

だれもが知ってる小さな国

 

 

パラドックス13 (講談社文庫)

著者:東野圭吾
かなり長編だったが、次に起こる展開が気になって読む手が止まらなかった。東野圭吾としてはめずらしい完全SF。

タイムパラドックスで無人の東京に残された13人。大雨と地震に襲われ廃墟となりつつある極限状態をどう生き抜こうとするかを描く。極限状態で見えてくる人間の本質をうまく描写している。

個人的には、兄誠哉の考え方は好きではないかな。特に生殖的な箇所は頭で理解できても、心理的に無理。そういう意味では、もっと冬樹と明日香の関係性をみたかった。この2人は現実世界でも生き残っているので、その後が気になるところ。

パラドックス13 (講談社文庫)

パラドックス13 (講談社文庫)

 

 

分身 (集英社文庫)

著者:東野圭吾
最初の一行目の書き出しが上手い。

二人の主人公が真相に迫っていく度に、次の真相をとなっていった。最後に行くにしたがって無理やり感のあるストーリーとはなってしまっていたが、伏線の張り方や設定はさすがというところ。登場人物の容姿、性格、言葉遣いをその役割別にはっきりさせていて、わかりやすい作品。

作者のこの手のストーリーは、最新の医療技術の闇の部分を暴き出すことで、人間としての倫理観を改めて考えさせられる。

分身 (集英社文庫)

分身 (集英社文庫)

 

 

怪笑小説(集英社文庫)

著者:東野圭吾
◯笑シリーズ第一弾。このシリーズは、ブラックユーモアたっぷりな短編小説が多く、長編とは違った面白さがある。その面白さの所以は、解説で真保裕一が語っている。

気に入ったのは、よく車内でありそうな『鬱積電車』、『アルジャーノンに花束』をパロった『あるジーサンに線香を』、人間の本質を動物に擬似化させた『動物家族』。ただ、オタク的には将来的に『おっかけバアさん』みたいにならないようにと思うところ。

あと読んでいない1冊の毒笑小説も楽しみ。

怪笑小説 (集英社文庫)

怪笑小説 (集英社文庫)

 

 

何者
著者:朝井リョウ 

就活が題材の作品だが、現代のコミュニケーションツールとなっているSNS(主にTwitter)での付き合いを見事に暴き出した作品なのかもしれない。

友人(?)同士の腹の探りあいに、Twitterの裏アカウントでのツイート。

SNS上で振る舞えば振る舞うほど、本音は隠されていく。その振る舞いに嫉妬し、嘲笑する。文字面で判断するのではなく、文字間を意識し、想像することの大切さを改めて認識した。

就活は企業に、SNSは誰かに何かしらの形で認められたいという欲求が暴き出される場なのかもしれない。そういう意味では、朝井リョウの作品に見え隠れする「人に必要とされたい」みたいなテーマを上手く引き出している作品なのかもしれない。

何者

何者

 

 

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

著者:大塚久雄
著者は、社会学を学ぶ上では避けて通れない大塚久雄

講演を行ったものに加筆・修正を加えたもの。ヴェーバーの入門書として、読みやすい1冊。

「社会科学の方法―ヴェーバーマルクス」ではマルクスとの対比、「経済人ロビンソン・クルーソウ」は経済学的にみた「ロビンソン・クルーソー」の再解釈、「ヴェーバーの「儒教とピュウリタニズム」をめぐって―アジアの文化とキリスト教」では東洋と西洋の宗教を対比させた宗教社会学、「ヴェーバー社会学における思想と経済」では宗教からさらに踏み込んだ視点での解釈となっている。

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

 

 

日本を見なおす―その歴史と国民性 (講談社現代新書 14)

著者:鯖田豊之
出版されたのが1964年と半世紀も前だが、日本とヨーロッパの歴史を比較し、日本の近代化(明治〜1964年当時)までを見直す。

比較ではあるがそれぞれを「歴史的個体論」から検討する手法で書かれている。日本を女性的、ヨーロッパを男性的と捉えるあたりは興味深い。

文化接触の結果としてどう変容していったかも丁寧に書かれており、また違った視点で近代を見直すことができる。

 <了>