とある音楽番組をみた
先日に知合いの家でこんな番組をみた。
「心のベストテン」
通常はフジのオンデマンドでしか配信されていないのだが、特別編ということで地上波放送していたのを録画しておいてくれたのだ。
元々はcakes(ケイクス)でダイノジの大谷ノブ彦と音楽ジャーナリストの柴那典が同名のコラムを書いていたのを対談形式にしたもの。
この中に「レイチェル・プラッテンと乃木坂46」と題したものがあり、乃木坂46についてかなり深い洞察をされていたので、自分なりの解釈も含めて今の乃木坂46について考察してみたいと思う。
ちなみに観たのはこの番組。ダイノジ大谷と音楽ジャーナリストの柴さんが音楽について対談してるんだけど、乃木坂の話は興味深かった。あと、きゃりーとPerfumeの話とか。
— Snashi(えすなし) (@Sknassy) January 25, 2016
心のベストテン - フジテレビ https://t.co/O3dtwiKEu3
乃木坂46の去年の曲は壮大な三部作だった!?
アイドルはマネージメントで楽曲で次にどんな曲を使うのかという必然性がないと大ブレイクしない。大ブレイクしているアイドルは必然性に沿った楽曲の出し方をしている。
これは大谷が語っていた言葉であるが、そのグループの「叙事詩」を書いているシングルがあり、それを出すべきタイミング(=必然性)でリリースし、「ストーリー性」を作っている、持っているアイドルが圧倒的に売れており、盛り上がっているのがアイドル界の現状であるというのを見事に言い当てている。
その中で乃木坂46は一昨年(2014年)の紅白に確定といわれたが出場できなかった。
「さぁ、紅白に出れなかった翌年にどうやっていくのか?」というのが、2015年の大きな目標だったといえる。逆に、2015年は、紅白出場を念頭にストーリーを綿密に作り、そのストーリーを突っ走ってきた年とも言える。
それを踏まえて、柴さんがこんなことを言っている。
去年のシングル「命は美しい」、「太陽ノック」、「今、話したい誰かがいる」は「踏み出せない子」の三部作である。
これには眼からうろこが落ちた。
確かに、一つ、一つの曲はそれなりに聴きこんではいるだろう。
しかし、乃木坂46においては、一部例外を除き「叙事詩」は存在しないし、そこに別シングルと別シングルを繋げてのストーリー性というものは存在してこなかったと言える。無論、どのシングルとどのシングルを繋げて、ストーリー性を持たせて聞くのかという問題もある。
その中で、柴さんはこのようになことを語っていた。
「命は美しい」、「太陽ノック」、「今、話したい誰かがいる」は全て主人公が「自分の殻にこもっている子」である。
例えば、「命は美しい」では「何のために生きるのか?」や「夢を見られるならこの瞼を閉じよう」などの詞があり、それを表現していると言える。また、「太陽ノック」にも「一人きり閉じ籠ってた」という詞がある。「今、話したい誰かがいる」では、本当の気持ちを言わないことで今の世界を保とうとしているのである。
去年の乃木坂46のシングルの主人公は全て「自分」から外の世界を見ている。その「主人公」がどう外の世界と関わって行くかの変化を捉えるという話をしており、唸ってしまった。
柴さんは「心が叫びたがっているんだ」の主人公の女の子の話までを絡ませて、「自分の殻にこもっている子」すなわち「踏み出せない子」の話をしていて、強い説得力を感じた。
これは改めて三作の歌詞を見直せばわかるけど、そういう見方をすればかなり作りこんである三作と言えるし、大谷に言わせれば「今の子超あるあるで、超普遍的なポップス」らしい。
そして、それを去年の乃木坂46に歌わせたことがいわゆる必然性ということなのだろう。
乃木坂46の人気の秘密
AKB48は戦う女の子
乃木坂46は戦えない女の子
柴さんが公式ライバルと言われているAKBと乃木坂を考えた時に出てきたフレーズらしい。
乃木坂46は「戦えない女の子」の曲だから刺さるのであり、出すべき曲でファンが乃木坂46に求めているものを正しい形で出していると柴さんと大谷は結論づけている。
戦えない女の子の一例で大谷が生駒里奈に初めて会ったときに、「将来の夢は?」という質問に「早く、秋田に帰りたい。」という答えをされたというエピソードを話しており、昨年に公開されたドキュメンタリー映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」や昨年末に集英社から出版された『乃木坂46物語』を思い出した。
映画を観た方はわかると思うが、特に取り上げられた乃木坂46メンバーは、「どこか別の場所に逃げてきた(逃げたい)子」だったのである。また、『乃木坂46物語』にもこのエピソードは物語の一つの軸として欠かせないものになっている。
ここから「逃げる」ということは、本質的に「戦えない(戦わない)」ということでもある。
反面、AKB48はその成長過程において、世間の目というものと戦ってきた大きくなったグループであり、常にグループ内でも戦いを強いられてきたグループである。
そのような文脈で「AKBは戦う女の子。乃木坂は戦えない女の子」と言ったのだろう。
『乃木坂46物語』に、「戦えない女の子」を端的に表現したと個人的に思った一文がある。
初期のセンターである生駒里奈が真っすぐな”正義”をめざす”少年マンガの主人公”であるのなら、繊細で自分に自信のない西野七瀬は”少女マンガのヒロイン”のような存在。
―『乃木坂46物語』P.278
生駒里奈は少年マンガの主人公、西野七瀬は少女マンガのヒロイン。
ここでいわゆる王道と言われる少年マンガ、少女マンガの要素について個人的にいくつかあげてみる。
- 正義
- 友情
- 努力
- 成長
- 心理描写が少ない
- 読者が常に主人公と同じ目線、心情
少女マンガ
- 美形
- 葛藤
- 恋愛
- 成就
- 心理的描写が多い
- 読者は主人公とは別の第三者としての目線、心情
あくまで一例であるし、これ以外のマンガも多数存在する。しかし、こうあげた時に周りによって作られたとかは関係なしに、今見えるものとして、前者は生駒里奈、後者は西野七瀬のキャラクターに近いものがあるといえる。
乃木坂46に女性のファンが多いのは、「戦えない女の子」像を圧倒的に身近に感じているからで、その中で特に、西野七瀬は本人の意思とはたぶん別のところで「少女マンガのヒロイン」として君臨してるからこそ、人気があるのではないだろうか。
生駒里奈が少年マンガの主人公、西野七瀬が少女マンガの主人公は一見相反するように見えるが、「逃げる≒戦えない」ということでは同じではないのかと思う。
少年マンガも、実は最初は自分の境遇から目を背けるパターンが多いし、少女マンガもヒロインも自分の境遇に諦めているパターンが多い。これは一種の「逃げ」であり「他戦うこと」から目を逸らしている。
「逃げる」からの「戦う」という意味において、乃木坂46においてわかりやすいのは、少年マンガのヒーローが生駒里奈で、少女マンガのヒロインは西野七瀬なのだろう。
そして、乃木坂46という物語では、センター回数からも生駒里奈と西野七瀬という二人は欠かせない登場人物なのである。その二人が中心なのであれば乃木坂46は、「戦えない女の子」という言葉はハマっている。
また、松村沙友理は乃木坂46について『乃木坂46物語』のなかでこう語っている。
「私、乃木坂46ってマンガみたいだなって思っていて、メンバーそれぞれがいろんなマンガの主人公なんですよ。生駒(里奈)ちゃんみたいな少年マンガの主人公。まいやん(白石麻衣)みたいなオシャレなマンガのヒロインもいる。でも、誰を主人公にするかで、マンガのジャンルすらも変わっちゃうと思うんですよね。そんなマンガの集まりが乃木坂46だと思うんです。で、そのマンガの未来。最終回はメンバーの第2章が始まるっていう」
―『乃木坂46物語』P.295
どのアイドルグループにおいても、少年マンガ的な歩み方をする子もいるし、少女マンガのヒロイン的な歩み方をする子もいる。
実際に乃木坂46においては、少年マンガ的なキャラのメンバーはそれぞれのストーリーの中で語れることが多く、少女マンガ的なキャラのメンバーは握手やメディアを通して人気があり、その割合バランスが絶妙なところにあるグループだろう。
だからこそ、他のグループとは一線を格したアイドルグループの地位を築いており、ファンにとっての理想的なアイドル像こそが、今の乃木坂46人気があるのだろう。
『君の名は希望』とこれからの乃木坂46
そんな乃木坂46は、2015年の紅白歌合戦で『君の名は希望』を披露した。
この曲は、「私はここにいていいのか?」という彼女達が持っていた想いを表現した曲といえる。
曲の内容的に、部屋の中でひとりぼっちでいることが一番いいと思っていたけど、いろんな人と触れたり社会にふれて世界を広げた時に、あぁ、世界はこんなに優しいんだ、人は1人で生きていけないんだという内容である。また、その内容はファンひとりひとりの日常とシンクロしており、乃木坂46のファンにおいても大切な曲である。
これは内容的に2015年の三部作と通じるものがある。それを初出場の紅白で披露したという意味合いにおいて、乃木坂46の第一章の締め、第二章のスタートとして相応しい曲である。
そんな乃木坂46のこれからについて、先日こんな記事が出ていた。
――多方面にハイレベルで安定して、とても順調に見えていた乃木坂46の2015年ですが、その裏側はやっぱり相当厳しいんですね。
今野:断腸の思いがたくさんありますね(笑)。まあ2016年はおそらくもっと激動の年になって、いろんな変革があると思います。変化していくことで生まれる物語も含めて、しっかりとしたエンターテインメントとしてファンの皆さんにお届けする責任がある。いま仰っていただいたハイレベルの安定というものも、今年はなくなるかもしれません。でも、その変化の中で失うものもあれば、新たに手にするものもあるでしょう。今年はまた、一から何かを作り上げていくことが必要かもしれないですね。この記事が公開されて以降、いろんなことが起こると思います。
乃木坂46の紅白後の展開を運営の今野さんが語ったものであるが、今後新たな変革が始まることを示唆している。2015年までに作り上げてきた乃木坂46が第一章で、2016年から新たに第二章がスタートするということなのだろう。
2015年末に念願の紅白で『君の名は希望』を披露し、公式的にも第二章がスタートすると示唆された2016年の乃木坂46から目が離せない一年となるだろうし、どのように変化していくのか、これからの乃木坂46に期待したい。
<了>
- アーティスト: 乃木坂46,秋元康,丸山真由子,Akira Sunset,APAZZI,Carlos K.
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