Rambler love peace

~世界の片隅から~

徒然にレビュー(2015/10)

10月に読んだ本のレビューをまとめてみた。 

作品を改めて読みなおすとまた違った視点で捉えられたり、改めて考えさせられることがあると感じる。

『何者』(朝井リョウ著)ではないけど、どうしても分析的に読んでしまう癖があるからかもしれないけど。ただ、楽しいものは楽しいし、面白いものは面白い。そっから何か得るものがあればいいんじゃないかなと思ったりする。

 

2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:10冊

 

レインツリーの国 (新潮文庫)

著者:有川浩
文庫化された時に既に読んでいたのを図書館戦争のドラマ&本作品の映画化ということで数年ぶりに再読。
本の感想をきっかけにメールのやり取りから始まった恋愛。健常者の主人公・伸と聴覚障害のヒロイン・ひとみにはなかなか埋めがたい溝があるのだが、それを一つ一つ失敗しながらも埋めていこうとする伸が眩しい。似た者同士のまどろっこさにキュン死させられるのだが、言葉の使い方に惹かれたという伸のセンスの良さには個人的に感じるものがすごくある。
あと、聴覚障害にも色々な段階があることを知ることにもなった作品。

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

 

 

青の炎 (角川文庫)

著者:貴志祐介
中学の時に映画を観て即購入した本。映画での主人公は嵐の二宮くんで、ヒロインは松浦亜弥。10年以上ぶりに再読。
推理小説の中でも犯人側からストーリーを描く倒叙推理という形式。
大切な家族を守るために、罪を犯す主人公。主人公が犯人なのに感情移入してしまうのは、心理描写を丁寧に書いていること、犯罪にリアリティがあるからだと思う。
犯罪を犯した後に大切なもの(家族、恋人、友人)を失ったことに気づく主人公が切ない。主人公と恋人のシーンはまさに青春なので、余計に切なさを感じる作品。
主人公とヒロインの性描写シーンをとても甘酸っぱく、でも官能的に書いていて、妙なエロさを引き出している。

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

 

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

著者:乙一

乙一が16歳で執筆したデビュー作。これを16歳で書いているとかただただ凄いと感心する。

「夏と花火と私の死体」は死んでしまった主人公の「わたし」の目線で展開される。子供ならではの考えと行動で「わたし」の死体を隠そうとしていて、狂気さにぞっとした。しかし、最後に関係ないと思われた事件の犯人が明らかになったときに、歪んだ愛の形をみてしまったと同時に「わたし」以外の3人にある種の恐怖を感じた。

併録されている「優子」は、正しいと思っていた主人公の感覚が実は狂っているということが明らかにされる。両作品とも「結」の作り方が上手く、その不気味さの余韻が心地よい。

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

 

 

だれもが知ってる小さな国

著者:有川浩,村上勉
有川浩の約1年ぶりの新刊。

コロボックル物語の本家佐藤さとる氏が直々に有川浩氏を指名して書かれた続編。挿絵は変わらず村上勉氏。
小さいころにコロボックルシリーズを読んだ記憶がかすかにあるが、世界観が全くかわらない完成度が高い作品。
コロボックル小国とは別のコロボックルの話だが、彼らは人間が読んでいるコロボックルシリーズを読んだことで、アイデンティティーを確立している。ラストに人間とコロボックルの隠された関係性が明らかになり、心温まる。人間の子供のヒコとヒメの幼馴染の関係性にキュンキュンする。
有川版のコロボックルは人間とコロボックルの関係性だけでなく、人間と人間の関係性(含む恋愛要素)があるところがオリジナリティを出している。
コロボックルシリーズを読みたい、読みなおしたいという強い衝動にかられる作品。

だれもが知ってる小さな国

だれもが知ってる小さな国

 

 

パラドックス13 (講談社文庫)

著者:東野圭吾
かなり長編だったが、次に起こる展開が気になって読む手が止まらなかった。東野圭吾としてはめずらしい完全SF。

タイムパラドックスで無人の東京に残された13人。大雨と地震に襲われ廃墟となりつつある極限状態をどう生き抜こうとするかを描く。極限状態で見えてくる人間の本質をうまく描写している。

個人的には、兄誠哉の考え方は好きではないかな。特に生殖的な箇所は頭で理解できても、心理的に無理。そういう意味では、もっと冬樹と明日香の関係性をみたかった。この2人は現実世界でも生き残っているので、その後が気になるところ。

パラドックス13 (講談社文庫)

パラドックス13 (講談社文庫)

 

 

分身 (集英社文庫)

著者:東野圭吾
最初の一行目の書き出しが上手い。

二人の主人公が真相に迫っていく度に、次の真相をとなっていった。最後に行くにしたがって無理やり感のあるストーリーとはなってしまっていたが、伏線の張り方や設定はさすがというところ。登場人物の容姿、性格、言葉遣いをその役割別にはっきりさせていて、わかりやすい作品。

作者のこの手のストーリーは、最新の医療技術の闇の部分を暴き出すことで、人間としての倫理観を改めて考えさせられる。

分身 (集英社文庫)

分身 (集英社文庫)

 

 

怪笑小説(集英社文庫)

著者:東野圭吾
◯笑シリーズ第一弾。このシリーズは、ブラックユーモアたっぷりな短編小説が多く、長編とは違った面白さがある。その面白さの所以は、解説で真保裕一が語っている。

気に入ったのは、よく車内でありそうな『鬱積電車』、『アルジャーノンに花束』をパロった『あるジーサンに線香を』、人間の本質を動物に擬似化させた『動物家族』。ただ、オタク的には将来的に『おっかけバアさん』みたいにならないようにと思うところ。

あと読んでいない1冊の毒笑小説も楽しみ。

怪笑小説 (集英社文庫)

怪笑小説 (集英社文庫)

 

 

何者
著者:朝井リョウ 

就活が題材の作品だが、現代のコミュニケーションツールとなっているSNS(主にTwitter)での付き合いを見事に暴き出した作品なのかもしれない。

友人(?)同士の腹の探りあいに、Twitterの裏アカウントでのツイート。

SNS上で振る舞えば振る舞うほど、本音は隠されていく。その振る舞いに嫉妬し、嘲笑する。文字面で判断するのではなく、文字間を意識し、想像することの大切さを改めて認識した。

就活は企業に、SNSは誰かに何かしらの形で認められたいという欲求が暴き出される場なのかもしれない。そういう意味では、朝井リョウの作品に見え隠れする「人に必要とされたい」みたいなテーマを上手く引き出している作品なのかもしれない。

何者

何者

 

 

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

著者:大塚久雄
著者は、社会学を学ぶ上では避けて通れない大塚久雄

講演を行ったものに加筆・修正を加えたもの。ヴェーバーの入門書として、読みやすい1冊。

「社会科学の方法―ヴェーバーマルクス」ではマルクスとの対比、「経済人ロビンソン・クルーソウ」は経済学的にみた「ロビンソン・クルーソー」の再解釈、「ヴェーバーの「儒教とピュウリタニズム」をめぐって―アジアの文化とキリスト教」では東洋と西洋の宗教を対比させた宗教社会学、「ヴェーバー社会学における思想と経済」では宗教からさらに踏み込んだ視点での解釈となっている。

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)

 

 

日本を見なおす―その歴史と国民性 (講談社現代新書 14)

著者:鯖田豊之
出版されたのが1964年と半世紀も前だが、日本とヨーロッパの歴史を比較し、日本の近代化(明治〜1964年当時)までを見直す。

比較ではあるがそれぞれを「歴史的個体論」から検討する手法で書かれている。日本を女性的、ヨーロッパを男性的と捉えるあたりは興味深い。

文化接触の結果としてどう変容していったかも丁寧に書かれており、また違った視点で近代を見直すことができる。

 <了>